大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成12年(ネ)4091号 判決 2000年11月07日

控訴人 A野花子

他2名

控訴人ら訴訟代理人弁護士 東由明

被控訴人 株式会社 アトリウム

右代表者代表取締役 吉田道生

右訴訟代理人弁護士 大貫憲介

同 山口元一

同 見野彰信

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中、控訴人ら敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

一  本件は、不動産競売手続によって、原判決別紙物件目録一記載の土地(本件土地)及び二記載の建物(本件建物)を競落取得した被控訴人が、同目録三記載の建物(本件車庫)も本件土地の構成部分もしくは本件建物の従物として所有権を取得したとして、本件建物については控訴人A野花子(控訴人花子)に対して明渡しと占有に伴う損害金月額二〇万円の支払を求め、本件車庫については、所有名義人である控訴人有限会社B山(控訴人B山)に対し真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続と賃借権設定仮登記の抹消登記手続を、控訴人らに対し明渡しを、それぞれ求めた事案である。

控訴人花子は本件土地及び建物の短期賃借権を主張し、また控訴人らは本件車庫は本件土地及び建物からは独立した存在であるなどとして争ったが、原判決は、本件土地及び建物の抵当権の効力はその付加一体物と認められる本件車庫に及び、また控訴人花子の短期賃借権や控訴人A野商事株式会社(控訴人A野商事)、控訴人B山の各登記は、いずれも執行妨害を目的としたもので、競落人に対抗できず、本件車庫への抵当権設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないとして、占有損害金の請求を一部棄却して月額一〇万円としたほかは、被控訴人の請求をすべて認容した。そのため、控訴人らが不服を申し立てたものである。

二  右のほかの事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人らの当審における主張)

1 原判決は、本件土地についての控訴人花子の短期賃借権を執行妨害を目的とした濫用的賃借権であるとしたが、事実誤認である。居住目的で借り受けて、賃料も支払っており、競売裁判所も、控訴人花子からの賃借権の主張を受けて、売却価格の見直しをしている。

2 原判決は、本件車庫について本件土地建物の付加一体物であるとしたが事実誤認である。競売手続上も独立した件外建物として取り扱われている。所有者であったC川松夫(C川)は、本件車庫を抵当権の対象とせず、控訴人A野商事との売買契約でも独立した不動産としている。これはC川が本件車庫を従物にしない意思を現したものというべきである。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、被控訴人の請求は原判決が認容した限度で理由があるものと判断する。その理由は、次に記載するほか、原判決の理由記載と同一であるからこれを引用する。

1  控訴人らの当審における主張1について

当事者間に争いのない事実及び原判決挙示の証拠によれば、原判決の事実及び理由欄第二事案の概要の一並びに第四当裁判所の判断の一記載の各事実が認められる。そして、右の各事実によれば、当裁判所も控訴人花子の短期賃借権は執行妨害を目的とした濫用的賃借権と考えるが、その理由は、原判決の右第四当裁判所の判断の一の記載と同様である。控訴人花子が実際に本件建物に居住し、賃料を支払っていたとしても、右判断を妨げるものではなく、競売手続において右短期賃借権が有効なものとして扱われたことを認めうる証拠もない。よって、控訴人らの当審における主張1は理由がない。

2  控訴人らの当審における主張2について

前記認定事実からすれば、本件車庫は、住居の付属物であるというその経済的用途からして、また事実上本件土地の擁壁としての役割を果たし、本件土地の崩落と本件建物の倒壊を防いでいることからしても、本件建物の従物であると共に本件土地の一部となっていることが認められる。したがって、本件土地及び建物に設定された抵当権の効力は本件車庫にも及び、その実行による競売手続によって本件土地及び建物の所有権を取得した被控訴人は、本件車庫の所有権も取得したものと解される。競売手続において本件車庫が件外建物とされていても、右実体法上の効果の発生を妨げるものではない。

控訴人らは、本件土地及び建物の所有者であったC川は、本件車庫を従物としない意思を表示していたとも主張するが、本件土地及び建物にC川が抵当権を設定したときには、本件車庫は未登記だったのであるから、抵当権の設定登記がないからといって、これを抵当権の対象から除外する意思を表示したものとはいえない。また、控訴人A野商事との売買契約で本件車庫を独立の建物として扱っているとしても、この売買自体が後述のように執行妨害目的と見られるのであるから前記判断を左右するものではない。

本件車庫は平成八年六月二八日に表示登記がされた後、同年七月二五日に控訴人A野商事のための保存登記、平成一〇年八月二一日に控訴人B山への所有権移転登記がされていて、本件土地及び建物に設定され、実行された抵当権の登記はされていない。しかしながら、前記認定事実によれば、右の各登記及びその前提としてのC川と控訴人A野商事の売買契約もまた、執行妨害を目的とするものと認められる。その理由は、本件車庫だけを独立して売買の対象とするようなことは通常考えられないことのほか、原判決の事実及び理由欄、第四当裁判所の判断の三(六丁裏七行目以下)の記載と同様である。したがって、控訴人A野商事や控訴人B山は、本件車庫への前記抵当権の設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないというべきであり、被控訴人による本件車庫の競落取得を争うことはできず、その所有権に基づく移転登記手続の請求に応ずべき義務がある。控訴人らの当審における主張2も理由がない。

二  以上によれば、被控訴人の本訴請求について、控訴人花子に対する占有に伴う損害金の請求の一部を除いて認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 西島幸夫 江口とし子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例